趣味と寄り道

「ジェノサイド」を読んで、人類という存在について考えた

人間って、自分たちより賢い存在と出会ったとき、何をするのだろう。

高野和明さんの「ジェノサイド」を読み終えた夜、そんな問いがずっと頭の中に残っていた。読み始めたのは、世界のあちこちで紛争のニュースが続いていた時期のことだった。毎日スマートフォンで流れてくる画像や動画を見るたびに、「なぜ人間はこんなに争いを繰り返すのか」という気持ちが積み重なっていた。答えが欲しかったわけじゃないけれど、何かに向き合いたかったのだと思う。そのタイミングで、知人が「これを読んでみて」と教えてくれた一冊だった。

知人はそれ以上の説明をしなかった。タイトルだけ聞いて、自分で調べて、買った。「ジェノサイド」という単語は重い。それだけで少し躊躇したけれど、読み始めたら止まれなかった。

手に取る前から重さを感じた本

「ジェノサイド」という言葉は、虐殺を意味する。読み物として楽しめるのか、そもそも楽しんでいい内容なのか、タイトルを見た瞬間そんなことを考えた。でも、知人が「これは本当に考えさせられる」と言っていたので、思い切って読み始めた。

ページをめくってすぐに気づいたのは、これが単純なエンタメ小説ではないということだ。現実の世界情勢と並行して物語が展開していく構成で、フィクションと現実の境界線が自然と薄れていく感覚がある。読み進めるうちに、「これは今の世界の話だ」という感覚がどんどん強くなった。

私はふだん、気持ちが落ち着く本を選ぶことが多い。日常の延長にある話や、ほっとする読後感のもの。でもこの本は最初から、そういう読み方を許してくれなかった。ページを開くたびに、何かを突きつけられるような感覚があった。それが苦しいかというと、不思議とそうでもなかった。向き合いたかった何かに、やっと触れられているような感じがしたのだと思う。

「新人類」と向き合う人間の反応が怖かった

物語の中に、人類よりもはるかに高い知性を持つ存在が現れる。普通の冒険小説なら、そこから「一緒に世界を良くしよう」という展開になりそうなものだ。でもこの作品は違った。

国家や権力者が最初に考えたのは、「脅威だから消そう」だった。

その場面を読んだとき、ぞっとした。フィクションとして非現実的だとは、全然思えなかったから。むしろ「そうか、現実でもきっとそうなるな」という確信に近い感覚があった。人間はずっとそうやってきたんじゃないか、と。

自分より劣ると判断した存在を支配し、利用し、時に排除する。一方で、自分たちより優れた存在と、本当の意味で対等に向き合えた歴史が、人類にあるだろうか。この問いは、読んでいる間中ずっと私の頭から離れなかった。

権力者が「脅威」と見なすものを排除しようとする話は、歴史の教科書にも出てくる。ただそれは過去の出来事として習うから、「今はそんな時代じゃない」と思いがちだ。でもこの小説を読んでいると、「今も構造は変わっていないのかもしれない」という気持ちになってくる。そこが怖くて、そこが面白かった。

読んでいる最中に何度も手が止まった

この本を読んでいる間、何度も手が止まった。ストーリーの展開に引き込まれているのと同時に、自分自身の日常と結びつけて考えてしまうからだ。

たとえば、職場での会議。意見を言いにくい雰囲気があるとき、私は黙ってしまうことがある。それは自分を守るための行動だと思っていた。でも、この本を読みながら、「優れたものを黙らせようとする力学は、どこにでもある」と気づいた。スケールは全然違うけれど、根っこにある人間の心理は同じかもしれない、と。

また、物語の中で「弱者を守ろうとする人間」と「脅威を排除しようとする人間」が対立する場面がある。どちらも「正しいことをしている」と信じているのが、また怖い。自分はどちら側なのか、本当にわかるのか。そんな問いが、ページをめくるたびに湧いてきた。

読書をしていて、こんなに自分に問い返すことが続いた本はなかった。物語の中の登場人物に感情移入しながら、「自分だったらどうするか」を何度も考えた。答えは出ないままだったけど、考えることをやめたくなかった。

エンタメとして純粋に面白い

ここまで書くと、難しくて重い本のように思われるかもしれないけれど、純粋にエンタメとしても面白い。展開のスピード感があって、登場人物それぞれの視点が丁寧に描かれていて、読み始めたら止まれない感覚がある。

私はふだん、仕事の合間に少しずつ本を読むことが多い。電車の中や、昼休みの10分とか。でもこの本は、「今日はここで止めよう」と思っても、続きが気になってやめられなかった。一人暮らしの静かな夜に、気づいたら深夜になっていた。そういう読書体験は久しぶりだった。

サスペンスの緊張感と、哲学的な問いかけが同時に来るのがこの本の特徴だと思う。どちらかだけを求めている人には少し違うかもしれないけれど、両方が好きな人には間違いなくハマる。ちなみに私は途中で一度だけ怖くなって、昼間に読む時間に切り替えた。夜一人で読むには、少しだけ重すぎる場面があった。

「ジェノサイド」というタイトルの意味が変わった

読み終えるころには、タイトルの「ジェノサイド」という言葉の見え方が変わっていた。

最初は「虐殺」という具体的な行為を指す言葉として受け取っていた。でも読み終えたあとは、それが人類という種のあり方そのものを表した言葉に見えてきた。「ジェノサイド」とは、ただの歴史上の事件の名前ではなく、人間が繰り返してきたパターンの名前なのかもしれない。

タイトルに込められた意味を、読み終えてから初めて本当に理解した気がした。そういう体験ができる本は、なかなかない。本を閉じた後も、しばらくタイトルをじっと見つめてしまった。

著者の高野和明さんがこのタイトルを選んだのは、何かを込めてのことだと思う。読んでいる間は物語に夢中で気づかなかったけれど、読み終えてから「ああ、そういうことか」と腑に落ちた。そういうタイトルのつけ方ができる作家さんはすごいと思う。

読んで以来、ニュースの見え方が変わった

この本を読んでから、差別や紛争のニュースを見るときの感覚が変わった。「またか」と流すのではなく、「なぜこうなっているのか」「どの力学が働いているのか」を少し考えるようになった。答えが出るわけじゃないけれど、考えることをやめなくなった、という感じだ。

それは重くなったということでもある。ニュースを見るたびに何かを感じるようになったので、気持ちが楽になったわけではない。でも、「知って向き合う」ことと、「知らないふりをする」ことは、全然違うと思っている。この本はそちらに背中を押してくれた。

世界の構造について、もう少し知りたいと思うようになったのも、この本がきっかけだ。地政学や現代史の本を少し手に取るようになった。読書の連鎖が起きたという意味でも、この一冊の影響は大きかった。

また、身近な出来事への見方も少し変わった。職場でのいざこざや、ニュースで見る政治の話を、「権力と弱者」という視点で考えることが増えた。それが正しい見方かどうかはわからないけれど、一つの視点を持つことで、物事が少し立体的に見えるようになった気がする。

積んでいた本を読むきっかけになった

この本を読んで以来、「積ん読」になっていた本を少しずつ開くようになった。読む前から「難しそう」「重そう」と敬遠していた本の中に、実は自分が求めていたものがあるかもしれないと思ったからだ。

ジェノサイドを読むまで、私はどちらかというと読みやすい本ばかり選んでいた。スラスラ読めて、ほっとできるもの。それはそれで大切な読書だと思うけれど、「少し重い本」を避けていたのも事実だった。

この本がその壁を壊してくれた。重さのある本でも、ちゃんと読み切れる。むしろそういう本の方が、読後に何かが残る。そう気づいたのは大きかった。

こんな人に読んでほしい

「なんで世界はこんなにひどいのか」と思ったことがある人に、読んでほしい。

答えをくれる本ではない。むしろ問いを増やす本だ。でも、「考えることをやめたくない」という気持ちがある人には、きっと刺さると思う。

エンタメとして楽しみながら、人間という種について深く考えさせてくれる。そういう二面性を持った小説は珍しい。重いテーマが苦手な人には向かないかもしれないけれど、「フィクションで現実を考えたい」という人には強くすすめたい一冊だ。

ミニマルな暮らしをしていると、「本当に必要なものは何か」を考える機会が増える。物だけじゃなく、情報や思考についても。この本はそういう問いの延長線上にある気がする。人間として何を大切にしたいか、自分の中の軸を確かめたい人に、読んでほしい。

一人暮らしの静かな夜に、ゆっくり読んでみてください。

本を読むことで、人間をもう少し信じられるようになった

この本を読んで一番驚いたのは、「それでも人間の中に、諦めない人がいる」という事実だった。国家が動き、巨大な力が働く中で、自分の信念を持って行動する個人が描かれている。彼らがヒーローかというと、そんな単純な話ではない。迷い、失い、間違う。それでもやめない。

そういう人間の姿を見て、「人間ってやっぱりひどい」という気持ちと、「人間の中にも捨てたもんじゃない部分がある」という気持ちが同時に湧いてきた。二つの感情が同時に存在できるんだということも、この本が教えてくれたことだと思う。

重い問いを突きつけてくる本だけど、読み終えたあとに完全に絶望するわけではない。むしろ、「考え続ける理由があるな」という気持ちになれる。それがこの本を読んでよかったと思える一番の理由かもしれない。

世界が複雑で怖く感じるとき、この本をもう一度開いてみようと思っている。答えは出ないけれど、考える力をもらえる気がするから。

重い本だけど、読んでよかったと思う。何かを考えるきっかけになる本は、読後感が重くても価値があると思っている。

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